2026/04/17 13:23
愚痴か文句か、いまいち話の主題が掴めない声声を聞きながら、その横のテーブルでは聾者が空を扇ぐように熱心に語り合っている。
週に五回、NHKで流れるニュースから得た浅知恵では、何処ぞの誰かが倒れたという情報しか掴めなかった。
目の前、向かいのテーブルでは女性がひとり、背を向けているもうひとりの性は、その中性的な髪の長さだけでは推測しきれない。ただそのテーブルから聴こえてくる嬌声には耳を傾けずにはいられなかった。
Mumble rap にも劣らぬ早口と威勢のない声量が上から聞こえてきたと思ったら、辛味チキンとその他雑多な品々が運ばれてきた。
テーブルの上を皿に次ぐ皿で埋め尽くし、店員がまた次の皿を運んで来た。が、あまりの皿の多さに戸惑い、運んで来た皿をテーブルの上に置くのを一旦諦め、店内を一周し、伝票を確認して、その皿は店内一回転を経て、またテーブルの前まで戻ってきた。
ふと、嬌声の発生源である向かいのテーブルからの視線に気がついた。その視線が同席の相方に向けられたものか、さらに奥の席に向けられたものかを確認することは出来ないまま、John Doe とも Jane Doe とも言えない、黒いレザージャケットを着た背中を見つめることしかできない僕は、ぼやけた視界を明瞭にして、目の前の皿を片すことに、専念する事にした。