2026/05/17 12:10
場所や時代、立場は違えど祖国アメリカのために立ち上がり奮闘した男たちがいる。フランクリンの筆を「昼」とするなら、サリンジャーの筆は「夜」さながら。両者ともに戦争を経験したという共通点はあれど、彼らの文章は異なるメッセージを読者に与える。 フランクリンはフレンチ・インディアン戦争ではイギリス軍のために軍需品調達に奔走し、後に外交官として英仏との外交折衝にあたり、アメリカ独立に大きく貢献した「建国の父」と呼ばれた一人だ(持留, 2013)。彼の『自伝』では、彼が政治家、外交官、作家、科学者、発明家として、イギリス植民地時代のアメリカを生き抜き、アメリカ独立運動の指導者のなった(BBC, 2014)全容を知ることが出来る。彼の怒涛に満ちた “Water-American” の人生と反比例するように、時系列順に羅列された塩気のない記述は、自らを律することの重要性を説いた彼の実直さを垣間見ることが出来る。また、富を得るための教訓を記した「富に至る道」では現代社会にも通ずる、韻とウィットに富んだ格言が散りばめられている。 Great Estates may venture more, But little boats should keep near Shore. (Franklin 1986:222) 絵に描いたような努力家は、多彩な才能を発揮し、後世語り継がれるような偉業の数々を成し遂げた。フランクリンの勤勉さなくして、今のアメリカは存在していなかったのかもしれない。 サリンジャーは傍聴部隊の一員となるために訓練を受けた後、ノルマンディー上陸作戦に参加。ヨーロッパにおけるアメリカ軍が経験した最も熾烈な戦争と言われているヒュルトンゲンの森の攻防戦に遭遇している(持留, 2013)。 彼の短編集 『ナイン・ストーリーズ』 に収められている 「バナナフィッシュにうってつけの日」 では戦争から帰還した兵士がフロリダの海辺でバナナフィッシュを探している一方、ホテルの室内ではベッドに腰を掛ける夫人とその母親が電話をしている(Salinger, 1991)。 はたから見れば、戦争帰りの主人公を懸念しているだけのように思われる会話だが、夫人の読んでいた雑誌 “Sex Is Fun—or Hell.” そしてベッド上での夫人の動きの描写は夫人の欲求不満と、主人公の性的不能を連想させる。そんな想像と共に文章を読み進めると読者の思考が作中の会話と噛み合い、あたかも登場人物と会話をしているような錯覚に陥るのである。読み手の数だけ解釈の仕方があるのだと言わんばかりに、サリンジャーは人間の共感性の曖昧さ、そして人間そのものの脆弱さをさらけ出すような作品を数多く残していった。読者を物語の中に引きずり込むようなストーリー展開と、若者に馴染み深い英語表現は多くの読者や批評家、特に第二次世界大戦後の世代の大学生を魅了した(Lohnes, 2025)ことにも頷ける。 アメリカ独立運動の立役者として活躍したフランクリン、第二次世界大戦の一兵士として暗躍したサリンジャー。生きた時代も背景も異なる二人の「英雄」が残した文学を読み比べることで、戦争は我々に何をもたらすのかを、全く違った観点から学び直すことが出来る。 Franklin, B. (1986). “The Autobiography and Other Writings”. Edited and Introduction by Silverman, K. Penguin Books. Salinger, J. D. (1991). “Nine Stories”. Little, Brown and Company. “Benjamin Franklin - History”. 2014. BBC. (https://www.bbc.co.uk/history/historic_figures/franklin_benjamin.shtml) “The Catcher in the Rye”. By Lohnes, K. October 27, 2025. Britannica. (https://www.britannica.com/topic/The-Catcher-in-the-Rye)